生鮮食品の輸送に関する研究
-イチゴのタイ向け小ロット輸送の輸送環境(第2報)-
朝来壮一*・川口和晃**
*食品産業担当・**神栄テクノロジー株式会社
Study on the Fresh Food Transportation
-Transportation Environment of the Strawberry for Thailand (2nd Rpt) -
*Shoichi ASAKI・**Kazuaki KAWAGUCHI *Food Industry Group・**SHINYEI TECHNOLOGY Co.,Ltd
要 旨
大分県産業科学技術センターと神栄テクノロジー株式会社は,イチゴの高品質輸出に不可欠な輸送環境条件
を明らかにするため,平成 24 年 12 月に小ロットでタイに輸出されるイチゴ「さがほのか」について温度,湿
度,気圧等について調査した.2L サイズ 7 分着色果を 11 果/パックとし,国内仕様に準じたスポンジ緩衝材
+樹脂トレイ包装とした.4 パック詰め段ボールの 5 段重ねで 2 梱包を輸送し,その陸上輸送及び航空輸送中
の梱包内温度,湿度,気圧を調査した.平成 24 年 11 月 29 日,大分県杵築市の選果場から出荷し,12 月 3 日
に福岡国際空港からタイスワンナプーム国際空港を経てバンコク市内の量販店に配送した.
着荷時の検査ではカビの発生が認められ,オセ,スレ損傷も認められた.温度及び湿度は積み替え回数と低
温保管庫への入出庫で大きく変動し,輸送期間中の最高温度は 22.8℃,最低温度は 2.6℃であった.湿度は最
低 45%,最高 96.2%であり,検品時に結露も確認できた.
1. はじめに
近年九州では東アジアへの表玄関として輸出を促進す
る動きが強化されつつある.その中で農産品など様々な
食品が輸出品目の候補として上がってきているが,九州
北部ではイチゴの輸出が注目されている.TPP の議論の
中でも農産物の輸出は国レベルでも重要な課題となって
きているが,それを支える農産物の輸出での流通技術に
ついては,コールドチェーンを含めて未完成の部分が多
い.
国内市場同様に農産物の鮮度を保ちつつ流通させるこ
とは,その商品価値を決定づける大きな要素である.特
に鮮度維持のためには最適な包装と温湿度の環境を確保
することが必要不可欠である.
本県でもタイ向けの農産品輸出が試みられているが,
青果物の中でも特に温湿度の影響を受けやすいイチゴの
輸送適正化が急務となっている.これまでに行った単発
的な輸出ではオセ,スレなどの障害や冷凍焼けなどの障
害が起こっているが,その要因は推定の域をでていない.
また,小ロット輸出は海外量販店での短期集中販売では
欠かせない.本県産のイチゴは,その生産の 90%が「さ
がほのか」となっており,北部九州から輸出される「あ
まおう」の補完的な位置づけで輸出が期待されている.
しかし,海外輸送,特に航空輸送では輸出プロセスの中
で国内流通とは異なる様々な行程が含まれるため,イチ
ゴが思わぬ傷害を受けることもある.イチゴを現地の限
られた期間内にタイムリーに販売するためには,これか
らも航空輸送による小ロット輸出は欠かせないため,そ
のコールドチェーン上の課題を抽出しておくことは極め
て重要である.そこで本年度タイ向けのイチゴの小ロッ
ト輸出に合わせ,輸送環境のうちコールドチェーンの根
幹となる温度,湿度,気圧等について調査すると共に,
着荷品質についても考察した.
2. 調査方法
2.1 輸送調査のフロー
輸送試験は,宅配便を利用して福岡経由の航空便(タ
イ直行便)で輸出されるイチゴの包装に同梱して行った.
調査は開始時点で気象測定用データロガーをセットして
バンコクの量販店で回収し検品するという方法をとった.
選果場(ロガーセット) → 宅配便(ヤマト運輸委託)
→ 日本通通運(フォワーダ委託) → タイ航空(直行便) → スワンナプーム空港(現地運送会社)
→ バンコク市量販店(伊勢丹:バックヤード搬入)
→ 検品
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という流れで測定機器を梱包した貨物を輸送し,梱包内
の輸送環境を測定した.
2.1.1 調査方法
○平成 24 年 11 月 29 日~12 月 3 日
○出荷及び調製地: 大分県杵築市,JA おおいた杵築選
果場
○出荷先: タイ王国バンコク市
○運送企業: ヤマト運輸(株)及び日本通運(株)福岡航空
支店
○現地協力企業: Daisho Thailand Co.,Ltd ,伊勢丹
バンコク
小ロット配送のため選果場でイチゴ包装に調査機器を
同梱後,宅配便(ヤマト運輸)で地域配送店(杵築市)
から発送した.着荷調査はタイのバンコク市内量販店内
で梱包を開封後,外観目視調査を行うとともに気象デー
タ等の回収を行った.
2.1.2 供試材料
○品種: 大分県産「さがほのか」
当日収穫後包装したものから選抜して下記の規格で調製
したものを用いた.2L 規格で 4:3:4 配列の 11 個/パッ
ク 5 段段ボール積1行李を 1 単位とし他を対照として
調査機器を設置した.すなわち下 2 段の段ボールをダミ
ーとしてバランス,輸送環境記録計を内部の 4 隅に配置
し粘着テープで固定した.
○使用機器: 輸送環境記録計 DER1000(神栄テクノロ
ジー社製)1 台,DT-174B(温度/湿度/気圧:MK サイエン
ティフィク)2 台
○機器の測定条件設定
・DER1000: 加速度レンジ:温湿度インターバル:30min
・DT-174B: 温度,湿度,気圧測定用 サンプリングレ
ート 1min
3. 調査結果及び考察
11 月 29 日から 5 日目の 12 月 4 日に着荷検品を行った.
タイの量販店ではバックヤードでバルク搬入されたもの
をリパックすることが多いため当日分の青果などはバッ
クヤードの低温保管庫に保管される.今回のイチゴも前
日の深夜にバックヤードに運び込まれたもので,着荷ま
では 4 日だが販売日までのリードタイムは 5 日となる.
通関前フォワーダでの 2 日間の保管があったため,最短
で 3 日程度に短縮することは可能である.
<カビ,オセ損傷>着荷したイチゴはよく冷却されてお
り品温は 8℃であった.結露も観察されたが,バンコク
の当日の平均気温は 28℃であったので比較的品温管理
は適正と思われた.
イチゴの損傷の主なものはカビの発生とオセであった.
カビの好適環境一般に 25℃以上,湿度 80%以上ほどだが,
イチゴの病害では 20℃95%以上が好適環境というもの
もあるためリードタイムを短くし低温で流通させるとい
うことが基本と考えられる.
Fig.1 カビの発生 Fig.2 包装内結露
Fig.3 オセ損傷
Table 1 輸送行程(実績)
カビの発生は他に数パック認められたが,損傷としては
オセ・スレ損傷が最も顕著で,一定の箇所に発生したも
のではなく果実の表面に一様に認められた.こうした傷
害は,着荷検査までの期間が 5 日間あったこともあり,
収穫から出荷調整の段階で潜在的に受けた傷害がリード
タイムの長さ,あるいはその間の温湿度,衝撃によって
加速されたという要因も排除できないが,選果場段階で
の傷害,輸送振動,リードタイムの短縮等を総合的に解
決する必要があると考えられた.
<温湿度>輸送中の品質変化に影響を与える要素として
は振動衝撃と同程度で温湿度の影響が大きいと言われて
いる.特に果実硬度は低温で維持されるため,出荷段階
でも果実硬度を意識して着色度 7 割程度で出荷される場
合が多い.今回も 7 割着色程度で出荷されたものだが,
リードタイムが長く,Table 1 のように通関検疫のタイ
ミングによっては運送会社の保管倉庫でのロスタイムが
生じる場合がある.こうした期間は 8℃程度の低温で保
持されるが,その前後の温度差で結露が生じることが多
い.また今回の輸送期間中の最高温度は 22.8℃で最低温
度は 2.6℃であった.この温度差で湿度が高ければ確実
に結露していることが予想される.実際バックヤードか
ら出して開封したイチゴのフィルムも直ちに結露した.
結露は直接カビの発生に結びつくことになる.したがっ
て低温倉庫での長期滞留だけでなく,全体としてのリー
Fig.4 輸送中の包装内温度
Fig.5 輸送中の包装内相対湿度
Table 2 輸送中の温湿度(総合)
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ドタイムの長さはイチゴの損傷拡大に影響すると考えら
れる.
今回の輸送は小ロットであるため,国内の宅配便を利
用している.今回の宅配便の場合 Table 1 に示すように
貨物を預託した地域店から県の基幹店に集積され,更に
そこで仕分けされて高原地帯を通る高速道路経由で福岡
の基幹店に配送されている.さらにそこから空港に近い
地域店に配送され,日本通運福岡航空支店に配送されて
おり,積み替え回数が増える原因ともなっている.小ロ
ット配送ではこうした積み替え回数の問題も大きいと考
えられた.
湿度は,国内輸送が 11 月末であったこともあり外気温
は 10℃台で推移していたが,イチゴの鮮度保持最適温度
は 0℃近辺であることから冬季であっても低温輸送は欠
かせない.相対湿度は 45%から 96.2%まで推移しており,
タイのバンコク市が高温多湿であることから湿度の上昇
は避けられない.湿度は一定した上昇ではなく,積み替
えによると考えられる一時的な上昇が課題である.その
際に結露しやすい環境となり,カビの発生に結びつきや
すいと推察される.このため積み替え回数の低減は振動
衝撃やリードタイムの短縮とともに高品質輸送にとって
重要な要素と考えられた.
<気圧の影響>国内での移動は大分県から福岡県に至る
大分高速道路の別府・玖珠 IC 間で九州最高地点 734m を
急な上りで通過するため気圧低下も急であった.航空機
では,通常機体強度や居住性を考慮して 0.7~0.8atm に
調整されているが,811.6hPa まで低下した.気圧変化の
影響は確認できなかったが,800hPa では容器包装の耐圧
性からは無視できない範囲であり,潜在的な傷害への影
響は否定できない.
<リードタイム>航空機の環境及び輸送条件からリード
タイムを短縮することは可能である.Fig.7 の輸出モデ
ル行程で 1 日目の卸売市場や仲卸のプロセスも調整で短
縮可能であるし,小ロットの場合は低温輸送車で直接産
地からフォワーダ倉庫に直送することも可能である.ま
た,植物検疫に合わせて産地輸送の担い手とフォワーダ
が連携すれば祝休日の倉庫保管を避けられる.プロセス
の簡略化を進めれば,福岡バンコク間のフライト時間は
4 時程度であり,国内輸送と差のない流通体型を組むこ
とは可能である.温湿度を含めた流通上の課題はまずリ
ードタイムの短縮で低減あるいは解消することができる
場合が多いと考える.
Fig.6 輸送中の包装内気圧
Fig.7 輸出のモデル行程